最近、茶色や青、黒、赤などの色々なあざについて質問を受けることが多いので、乳幼児から思春期の子どもに代表的なあざ(母斑)について解説します。
赤あざ
【生まれつきの赤あざ】
・単純性血管腫:あざのできる場所や大きさには個人差がありますが、主にお腹や背中、首の後ろ、顔、足などにみられます。ワインをこぼしたようなあざなので「ポートワイン血管腫」と呼ばれることもあります。
子宮の中で赤ちゃんが皮膚を形成する時に、真皮の毛細血管が局所的に異常に拡張・増殖することが原因で、成長しても消えることはなく、体が大きくなるについれて、あざの面積が広がります。大人になって皮膚が分厚くなることで、色が濃くなったり、褐色化したり、盛り上がってくる(腫瘤)場合もあります。
特に大きな病気が関係しているわけではないので、心配することはありませんが、あざの位置や大きさによって気になる場合は、早期にレーザー治療を行うことができます。特に、子どものうちは皮膚が薄いので、レーザー照射が届きやすく、治療には効果があります。保険適用が可能です。
・サーモン(サモン)パッチ:単純性血管腫と同じように見えますが、これは主に眉間や額、上唇のあたりにできやすいアザです。特徴としては、ギューッとつまんでみたら消えたり、赤ちゃんが泣いて興奮している時に一時的にアザが濃くなったりします。経過観察していると、1歳半くらいまでの間に自然に薄くなってきます。
【生後現れる赤あざ】
・乳児血管腫(いちご状血管腫):生後4週間以内に、顔や頭、肩、胸、手足、時には内臓などの様々な場所に出現します。
赤く盛り上がって、いちごの表面のようにツブツブしたものが集まったように見えることから、かつては「いちご状血管腫」と呼ばれていました。形や大きさはさまざまで、あまりツブツブが目立たずに広範囲に赤いあざが出る場合もあります。皮膚内部にあざができる深在型の場合は、青いあざのように見えます。
原因は皮膚下の毛細血管の異常発達で、生後3か月~1歳の間に増殖しますが、7歳くらいまでの間に少しずつ大きさが減り、赤みも少しずつ消えていきます。しかし、半数近くは色素沈着した瘢痕(はんこん)と呼ばれる跡が残ります。血管腫が盛り上がったまま放置すると、茶色いシミになったり、たるんでシワが寄ったようになります。
目や口、耳、喉などにいちご状血管腫ができた場合は、視力や聴力に障害が出たり、開口障害、呼吸困難に陥ったりしますので、積極的な治療が必要です。
これまでは、外科手術やレーザー治療でしか取り除けなかったのですが、2017年からヘマンジオルシロップという高い効果が期待できる飲み薬を使えるようになりました。治るかどうかの判断は、生後1歳までの間に決まります。保険適用が可能であり、どちらを選択したほうがよいかは早めにご相談ください。
青あざ
転んだり、強くぶつけた所が青くなる場合がありますが、それは皮膚の下で内出血して一時的にあざになっただけなので、数週間すれば消えてなくなります。
赤あざの原因が毛細血管の異常であったのに対して、「青あざ」「茶あざ」「黒あざ」は、メラニン色素を生成する色素細胞「メラサイト」が皮膚の表皮から真皮にかけて多く集まっていることが原因です。
【生まれつきの青あざ】
・蒙古斑:日本人のほぼすべての赤ちゃんは、生まれつきお尻や腰の辺りに青いあざがあります。生後1か月くらいまでにあざが現れます。蒙古斑は、特に治療の必要はなく、6歳くらいまでには消えてなくなるので心配ありません。胎児期の真皮のメラノサイト(メラニン色素を作る細胞)が残ってしまったのが原因だと考えられています。
・異所性蒙古斑:お尻以外の場所に青あざがある場合は、「お尻以外=異なる場所」の蒙古斑、つまり異所性蒙古斑と呼ばれます。成長とともに薄くなっていきますが、色調が濃い場合は消えにくく、また腕や足、顔などの目立つ部分にあると本人や家族の精神的な苦痛になることから、早期にレーザー治療を行うという選択肢があります。異所性蒙古斑にはレーザー照射の効果が高く、保険適応が可能です。
【生後あるいは成長とともに現れる青あざ】
・太田母斑:顔の片側に青い点状のあざが現れます。額からまぶた、頬、唇のあたり(三叉神経領域)に出るのが特徴で、稀に白目の部分が青くなる場合もあります。
生後すぐの赤ちゃんに出ることもありますが、多くの場合は生まれつき持っていたメラサイトが思春期以降になってはっきり現れ、女性に出やすい傾向があります。
太田母斑の原因は不明ですが、真皮の深い所にメラサイトがあり、一度出現すると自然に消えることはありません。しかし、最近のレーザー治療機は、真皮の深い所にある過剰なメラニン色素だけを狙って壊すことが可能で、保険も適用できるので、早期にレーザー治療を行うことで高い効果が期待できます。
茶あざ
青あざは皮膚の深い部分(真皮)にメラサイトが集まっているのに対して、茶あざは表皮のメラサイトが増殖することで茶色く見えるあざです。加齢とともに現れるシミやそばかすとは異なり、生まれつき表皮のメラニン色素が多くあることで茶あざになります。
・扁平母斑:体のどこにでもできる茶色く、平坦なあざです。ほくろのように膨らまないことから「扁平」と呼ばれています。
先天性の場合と、思春期になってから現れる遅延性の場合があります。思春期に出現する場合は、同時に毛が生えることが多くみられます。通常の扁平母斑なら悪性化することはないので心配はありませんが、稀にレックリングハウゼン病という重篤な神経線維腫症の場合がありますので、成長の経過を観察する必要があります。
成長とともに薄くなることはありますが、自然に消えてなくなることはなく、目立つ場所に大きくて濃い扁平母斑があると、本人にとってもご家族にとっても精神的な負担になると思います。レーザー治療は、皮膚の薄い乳幼児の時から治療を始めることが可能です。大人になってからでは再発して元の濃さに戻ることが多いので、早期の治療が有効です。
黒あざ
ほくろ(色素性母斑):ほくろは、メラサイトが変化して大きくなった母斑細胞が、皮膚の奥深くの真皮で増殖することで、黒っぽくみえるあざです。大きさはまちまちですが通常は6㎜以下で、形は丸いか楕円で、境目がはっきりしています。膨らんでくることもあります。ほとんどの場合は良性です。
メラノーマ(悪性黒色腫):日本人の10万人に1~2人の確立で、ほくろに似た黒い色素性母斑が全身に広がる「メラノーマ」という皮膚がんを発症することがあります。子どもにはほとんど発症することはなく、30歳以上で発症率が高い病気です。メラノーマは、足の裏や手のひら、爪の下などにできるケースが多く、ほくろと違って形がいびつで、6㎜以上の大きさになります。注意して経過を見れば早期発見につながります。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。