チック症とは、本人の意思とは関係なく、音声を発したり、同じ動作を繰り返してしまう「不随意運動」を伴う脳神経の疾患です。はっきりとした原因は不明ですが、脳からの信号がうまく伝わらないことで、意思とは無関係に筋肉が動いてしまいます。生まれつきの脳体質であるとも考えられているようです。また、新型コロナにより、こどもの情緒も不安定になり、チック症の頻度が増えているとの報告もあります。
子どもの場合は、4~5歳頃に始まることが多く、男の子に多い傾向があります。10~12歳の間に症状が激しくなりますが、大人になるにつれて頻度は減少してゆきます。
子どもの5~10人に1人が経験する身近な症状であり、一時的にチック症状が出ることはあっても、1年以内に自然と消えることが多いので、ほとんどの場合は特別な治療は必要ありません。
チックの種類
チック症には、運動チックと音声チックの2種類があります。さらに、単純な動作や音声を繰り返すのか、複雑な動作や言葉を繰り返すのか、症状がどのくらい継続するかによって診断が分かれます。
- 一過性チック症:1年以内に自然に消える。多くの場合はこれに該当します
- 慢性運動/音声チック症:音声あるいは運動チックのどちらか一方が1年以上続いて慢性化する状態をいいます
- トゥレット症候群:音声チックと多種類の運動チックが1年以上続いて慢性化するもので、子どもの1,000人に3~8人が発症すると言われています。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
運動チックの代表的な症状
【単純性】
- ●まばたきの回数が多い、白目をむく、目をぎゅーっとつぶる
- ● 首を左右または上下に振る、うなずく、首をそらす、ひねる
- ● 顔をしかめる、頬をひくっとさせる、鼻をひくひくさせる
- ● 口を曲げる、口をとがらせる、舌を出す
- ● 肩をすくめる
【複雑性】
- ● 表情を変える
- ● 腕を振る、回す、足の屈伸
- ● 体をのけぞらせる
- ● モノや人を触ったり、蹴ったり、叩いたりする
- ● 何かの匂いを執拗にかぐ
- ● 手を叩く
- ● ジャンプを繰り返す
音声チックの代表的な症状
【単純性】
- ● 必要以上に鼻をフンフン、スンスン、フガフガと鳴らす
- ● 風邪でもないのにエヘンと咳払いをする、コンコン咳をする(慢性気管支炎や喘息と誤診されている例がよくあります)
- ● 「あっ、あっ」「ん、ん」などと唸る
- ● 舌を鳴らす、しゃっくりのような音を出す
【複雑性】
- ● 同じ事を何度も大声で繰り返し言う
- ● 「バカ」や不謹慎な言葉を発する
- ● 自分の言った言葉を繰り返す
- ● 他人の言ったことをオウム返しに言う
治療法、対処法
わざと変な動きや発声をしているように見えますが、本人はそれを意図してやっている訳ではないので、無理にやめさせようと注意したり、叱ったりしても、効果はありません。それがその子の「癖」あるいは「個性」だと思って、まずは周りの人たちが理解して、温かく見守ることが大切です。
チックが出る時というのは、かゆい所を掻きたい時の衝動と似ています。掻いてしまえば落ち着くのと同様に、チックが出ればしばらく落ち着きます。どのような場面でチックが出るのかには個人差がありますので、保育園や幼稚園、学校の先生と協力しながら様子を観察してください。
咳払いを多発するチック(心因性咳)には、こどもの漢方薬が著効することがあります。ご心配な方は一度ご相談下さい。また、チックの頻度が高く、学校生活や日常生活に支障をきたすような場合は、症状を緩和するために抗精神病薬を使うことがありますが、薬を使ったらすぐに症状が完全になくなる訳ではありません。脳の発達を促すことで症状が出にくくなると考えられていますので、まずはしっかり睡眠をとる、早寝早起きして日中は体を動かすといった生活リズムの改善から始めてみましょう。
何れにしても、ご心配な方は一度クリニックを受診してみてください。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。