鼠径部というのは、太ももの付け根の溝の内側、恥骨左右の外側の股関節の前にあたる部分で、ちょうど三角形のようなエリアになります。この鼠径部には、鼠径管という管が通っていて、赤ちゃんが生まれる時、男の子の場合は、この鼠径管を通って精巣が腹腔から陰嚢へ移動します。
赤ちゃんがお腹の中にいる間は、精巣は赤ちゃんの腹部の中で作られるので、それが生まれる時に、鼠径管を通って陰嚢へ移動するわけです。女の子にも胎児の間は、同じようにこの鼠径管が袋のような形をして存在しています(ヘルニア嚢)。
通常は、鼠径管を通って陰嚢へ移動が終わると、腹膜から離れて自然に鼠径管は閉じてしまうのですが、まれにそのまま残ってしまうことがあります。そうすると、この袋の中に腸がでてきてしまって、お腹の上からさわると、ぷくっとふくらんでいるのがわかります。
大体は、1歳になるくらいまでに自然に治るのですが、それ以降になると、外科的手術をして、ヘルニア嚢を切除することになります。
ヘルニア嚢を放置しておくと、腸がヘルニア嚢の中に脱腸して、根元を締めつけられることで、血液がまわらなくなり、腸閉塞を起こすことがあります。これを嵌頓(かんとん)ヘルニアと言います。
鼠径部を触ってみて、ぷくっと膨らんでいる部分があれば、押してみてください。時々出るようでわからない時は、出た時の写真を撮ってお持ち下さい。押して戻るようならしばらく様子をみて、1歳を過ぎても膨らみがとれないようなら、手術をして切除したほうがよいでしょう。手術自体は簡単なので、日帰りでも可能です。
もし気になるぷくっとしたふくらみがあれば、早めにご相談下さい。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。