女性は、小学校高学年くらいで初潮を迎えるのが一般的ですが、最近では食生活の変化とともに体の成長が早く、小学校低学年で初潮になる女子も増えているようです。当クリニックでは、小学生~中高生の娘さん(やそのご家族)から生理痛に関する相談を受けることが多いので、今回は生理痛が起こるメカニズムと痛みへの対処法について説明したいと思います。
月経の仕組み
初潮~閉経するまで、女性の体は常に2つの女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の影響を大きく受けます。エストロゲン(卵胞ホルモン)は、卵胞を成熟させ卵子を子宮に運ぶように(排卵)を促します。
次にプロゲステロン(黄体ホルモン)が子宮内膜を増殖させて、壁を分厚くすることで、赤ちゃんのためのベッドを子宮内に作り、受精卵の着床(妊娠)の準備をします。妊娠しなければ、プロゲステロンの分泌は急激に減り、子宮内膜の増殖はストップし、使われなくなった子宮内膜は剥がれ落ちて経血とともに体外へ排出されます。このサイクルが一般的に約25日~28日の周期で起こるのが月経です。
生理痛はなぜ起こる?
生理痛は主にプロスタグランジンという「痛み物質」が作用することで起こります。プロスタグランジンは、使われなくなった子宮内膜を経血とともに体外に押し出すために子宮を収縮させる作用があります。生理の時に一番多い症状は、下腹部の痛みですが、これはプロスタグランジンが子宮の収縮を促進している時に感じる痛みです。
しかし、プロスタグランジンの分泌が多すぎると、子宮の収縮が激しくなることによって、下腹部にキリキリと差し込むような痛みや、引っ張られるような強い痛みを感じます。また、プロスタグランジンには、血管を収縮させる作用もあるため、全身の血流が悪くなり、下腹部以外にもさまざまな不快な症状が現れます。
例えば、骨盤周りの血流が悪くなって腰の辺りが重くだるく感じたり、下半身が冷えやすく、足がむくんだりします。また、胃腸の血流が悪くなって吐き気や下痢(あるいは便秘)を引き起こしたり、頭の血流が悪くなって頭痛がひどくなったり、一日中頭がぼーっとして眠くて仕方がないという人もいます。
思春期は、子宮口が未熟で狭いため、子宮の収縮を強めて排出させようとするプロスタグランジンの働きが過剰になり、症状がひどくなる傾向があります。生理痛がひどくて起きられない、座っていても横になっていてもつらい、食欲がない(あるいはお腹が痛くて食べられない)、イライラする、何にも集中できないなど、生活に支障が出るほどになった場合には、早めに婦人科を受診することをお勧めします。
生理痛を緩和する方法
15歳以上の場合は、生理痛の痛みの原因となっているプロスタグランジンの生成そのものを抑える鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)として「アスピリン」や「イブプロフェン」を内服することで、子宮の収縮を抑えて症状を緩和させることができます。しかし、15歳未満のお子さんの場合、この薬で強い副作用が出ることもあるので、解熱鎮痛剤としてもよく知られる「アセトアミノフェン」がよく使われます。この薬は、脳が痛みを感じにくくなるようにして、痛みを緩和、軽減させる薬理作用があります。市販薬には、1種類だけではなく、複数種類の成分が含まれていることもありますので、15歳未満の方には注意が必要です。
薬を飲んでも痛みが収まらない、生理が来るたびに痛みの程度が悪化しているような場合は、子宮内膜症になっている可能性もあります。早めにご相談下さい。詳しい検査が必要な場合は、婦人科専門医をご紹介します。
また、生理の時は貧血になりがちで、特に月経時の経血量が多すぎる人は、鉄欠乏性貧血になりやすい傾向があります。貧血になると口腔内の体温が高くなり、冷たいものを食べたり飲んだりしたくなるのですが、それにより体が冷えると、生理痛がさらにひどくなってしまいます。貧血のサインがあれば、鉄剤を処方しますので、クリニックにご相談ください。
つらい生理痛を改善させるためには、日ごろから体を温めて血流を良くすることが大切です。大豆製品は、ホルモンバランスを整えるのに効果的です。また、ビタミンEを多く含む食品やショウガ・ネギなどの香味野菜を摂って体を温めるとよいでしょう。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。