「思春期」とは、性ホルモンが分泌されることで、男女に特有の身体的な特徴が徐々に顕著になるとともに生殖機能が発達し、身長が伸びて、やがて骨格形成が終了するまでの過程を指します。
簡単に言えば、いわゆる「成長期」ですね。身長がぐっと伸びて、男の子は男性らしい、女の子は女性らしい体つきになっていく時期のことです。こうした体の変化を「二次性徴」と言いますが、陰部や脇に毛が生えたり、男の子なら陰茎・精巣が大きくなり、髭が生えて声変わりしたり、女の子なら乳房が膨らんで初潮を迎えます。
通常、二次性徴は小学校高学年くらい(男の子なら9歳くらい、女の子は8歳くらい)から始まって、2~3年かけて徐々に体が成熟するものですが、何らかの理由で普通よりも早い年齢で性ホルモンが分泌されてしまうことで、標準的な子どもと比べて体の成熟が早い、身長が高いといった症状が見られると「思春期早発症」が疑われます。乳幼児でも経血があったり、乳房が膨らんできたり、陰毛が生えたりすることがあります。
女の子の場合は、学校の健康診断などで胸部を診察する際に早期に発見することができますが、男の子の場合は、身長が高いこと以外は健診では見えない部分でわかりずらく、またご家庭でも急に一緒にお風呂に入らなくなったりするので、要注意です。
主な原因
人間の脳には、自律神経系やホルモンの分泌をコントロールする「視床下部」があります。視床下部が刺激物質を出すと、その下にある「脳下垂体」が反応して「ゴナドトロピン」というホルモンを分泌します。これによって、男の子の場合は精巣、女の子の場合は卵巣にあたる性腺の成長を刺激して、性ホルモン(テストステロンやエストロゲン)が分泌されることで、成熟が誘発されて思春期が始まります。思春期早発症は、通常よりもかなり早い時期に性ホルモンが出ることで、卵巣/精巣の成長が進み、性早熟になります。
思春期早発症の多くは、突発性と呼ばれており、原因がはっきりとはわかっていません。突発性思春期早発症の場合は、性ホルモンの分泌を抑える薬を注射することで、思春期の進行を遅らせて、正常な成長スピードに戻します。
また、先天的な副腎疾患や脳腫瘍(中枢性)、あるいは成長ホルモンを生成する副腎や性ホルモンを生成する卵巣・精巣の腫瘍(末端性)などの器質的な疾患が原因の場合もあります。中枢系・末端性の思春期早発症は、薬物療法や、腫瘍を取り除く外科手術や放射線治療・抗がん剤治療が必要になります。万が一、脳腫瘍などの重大な中枢系疾患が潜んでいる場合がありますので、思い当たる節があれば、早めの受診をおすすめします。
検査と診断
まずは、問診で二次性徴の度合いを診察したうえで、思春期早発症が疑われる場合は、骨の成長度を見るために手と手首のレントゲンを撮って骨年齢をチェックし、血液検査で性ホルモンの量を測ります。また、脳腫瘍などの重大な疾患がないかどうかを見るために、頭部のMRIや腹部のエコーを行う場合もあります。
思春期早発症と低身長
思春期早発症で最も一般的な心配事が「低身長」です。思春期早発症の子どもは、周りと比べて一時的に背が高くなりますが、年不相応に性ホルモンが分泌されるために骨の成長スピードが異常に早くなり、実年齢よりも骨年齢が進んでしまって、身長が伸びどまり、大人になった時の身長(最終身長)が低くなる可能性があります。
治療法としては、下垂体から出る性ホルモン(ゴナドトロピン)の分泌を抑えるLH-RHアナログという薬を投与することで、卵巣からのエストロゲン、精巣からのテストステロンの分泌を抑制して、思春期の進行を遅らせます。そうすることで、骨の成長を抑制し、身長が伸び止まらないようにする効果が期待できます。月に1回、注射するだけで、あとは普通に生活していて大丈夫ですが、経過を見るために定期的に検査することをおすすめします。
低身長については、こちらの記事も参考にしてください。主婦の友社出版 2019年3月発売
「食べててよかった!子どもの身長がぐんぐん伸び~る133のレシピ」を中野先生が監修しています。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。