おたふく風邪の発症後、4日くらい経った頃から、突然片耳が聞こえにくくなることがあります。これは、おたふく風邪(ムンプス)の合併症のひとつで、ムンプス難聴と呼ばれています。
ムンプス難聴は、発症後すぐに治療を開始すれば改善するケースもいくつか報告されていますが、ほとんどの場合は、「治療の方法がない」と医師から宣告され、あまりに突然の不幸に、愕然とするのが現実です。
発症率は5000人に1人の割合で、非常に少ないものの、年齢別にみると、3歳~7歳の幼児、学童期に最も多い病気です。子供の場合は、自分で異常を知らせることができず、どうしても発見が遅れてしまうため、はっきりと診断がつく頃には、すでに聴覚機能が破壊されていて、治療が困難になるのです。
ムンプス難聴の原因
人間は、鼓膜のさらに奥にある内耳と呼ばれる部分で、伝達された音の振動を感じとります。振動は、細かい毛の生えた有毛細胞と呼ばれる特殊な細胞によって、聴神経への電気信号に変換されます。ムンプス難聴は、この有毛細胞にムンプスウィルスが入り込み、組織を破壊してしまうことによって、聴神経への伝達機能が働かなくなることから、聞こえにくくなると言われています。有毛細胞へのダメージが大きければ、それだけ高度な難聴になってしまいます。
ムンプス難聴では、片耳だけに障害が出るため、気付くまでに時間がかかります。子供が電話で話している時に、片方の耳だけよく聞こえないと子供が訴えることで、はじめて「おかしい」と異常に気が付くことが多いようです。ムンプス難聴になると、電話の声や指が擦り合う音など、高周波の音が聞き取りにくくなります。もし、おたふくにかかってしまったら、発症後しばらくの間は、耳のそばで指を擦り合わせて高周波の音を出し(指擦り)、子供がちゃんと聞こえているかどうか様子をチェックするようにしましょう。
ムンプス難聴を予防するには
今のところ、唯一の予防策は、おたふく風邪にならないようにすること、つまりおたふく風邪の予防接種を受けることです。発症例が少ない=うちの子はかからない、ではなく、治療法のない病気を予防できるなら、できることは今やっておくことが大切なのです。
”An ounce of prevention is worth a pound of cure.” – 1オンスの予防薬は1ポンドの治療薬に値する、つまり転ばぬ先の杖が大切だということです。おたふく風邪(ムンプス)ワクチンは、いつでも接種可能です。詳しくは受付にお尋ねください。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。