小さなお子さんの手を急に引っ張ったり、お父さんがブランコするように腕でぶら下げて揺らしたり、転びそうになった子どもの腕を掴んで引っ張り上げたり、転んで肘を強く打ったりした時によく起こるのが肘内障です。腕をぶらんと下げて、肘をかばうように曲げたまま痛がって大泣きする子が多いです。腕を下げていれば痛みは治まるのですが、腕を上げようとすると痛くなるのが特徴です。
骨折した場合は、痛い部分が腫れてきて、手指の血色が悪くなり、腕を動かさなくても痛がります。肘内障はこういった腫れや手指の変色はなく、動かさなければ痛くありません。
肘から手の前腕には、2本の骨があります。親指側に橈骨(とうこつ)があり、その後ろ側に尺骨(しゃっこつ)があり、その2本を「輪状靭帯(りんじょうじんたい)」が輪ゴムのように肘の辺りで繋いでいます。この2本の骨が交差している時(手の甲が上に向いている時)に強く引っ張られたりすると、輪状靭帯から橈骨の頭の部分がぬけてしまうことがあります。歩き始めた赤ちゃんから小学校入学前くらいの子どもは、橈骨頭の膨らみが未熟なため、強く引っ張られると靭帯が橈骨頭に引っかからずに外れる傾向があります。骨折している訳ではなく、靭帯から骨が外れた状態、いわゆる「亜脱臼」の状態であり、これが肘内障です。
腕を上げると痛がる、痛がる方の手で何かを掴もうとしない等、肘内障が疑われる場合は、早めに受診しましょう。治療方法は、外れてしまった輪状靭帯を元の位置に戻してあげる、「整復」処置を行います。特に麻酔などは不要ですが、親指を下にして前腕を回しながら圧をかける「回内法」、あるいは親指を外側へ倒して肘を曲げる「回外・屈曲法」のいずれかを行います。整復は数秒で済みますが、少し痛いので泣いてしまうお子さんが多いのですが、「プチッ」という音がすればハマったということで成功です。
肘内障は繰り返し起こしやすいので、しばらくは無理をしないでいてほしいものですが、小さなお子さんに制限をするのは難しいのが現実です。しかし、大人と手をつないでいる時に肘内障を予防する方法はあります。大人が子どもの腕を握るのではなく、子どもが大人の指を握るような癖をつけておくと、肘内障を起こしにくくなりますので、普段から指を握らせるようにしてみましょう。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。