お母さんたちからは、「複数のワクチンを同時に接種すると、どんな問題がありますか?」という質問をよく受けます。答えは「全く問題ありません」です。
海外ではむしろ同時接種が一般的で、ワクチンの有効性や副反応について、同時接種と単独接種では差がないことが科学的に証明されています。
また、乳幼児期に受けるべき重要なワクチンは、BCG、四種混合、MR、ヒブ、肺炎球菌など他にも数多くあり、接種回数も複数回に及ぶため、赤ちゃんの体調の良い時を狙って、1回1種類ずつ個別に接種していくのは、かなりの時間的な制約と負担になります。
日本では従来、1回に1種類のワクチン接種という厚生労働省の予防接種実施要領があり、医師は特別な事情がない限り、同時接種を控えるといった傾向がありました。
しかし近年、夫婦共働きや子どもの習いごとや塾通いの増加などのライフスタイルの変化によって、複数のワクチンを単独で受けるための時間を作れず、接種率が低下するという問題が生じ、こうした親の負担を軽減するためにも、同時接種を推進する動きが高まっています。
しかしそんな矢先に2011年2月、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンなどを同時に接種した乳幼児の死亡例が7件報告され、同時接種に対してさらに不安を感じられた方も多いと思います。
しかし、その後の詳しい調査の結果、ワクチンの品質に問題はなく、接種と死亡の明確な因果関係は認められませんでした。死亡した7名の患者のうち3人には心臓病などの基礎疾患があり、また他の患者についても乳幼児突然死症候群や感染症が死因である可能性があることがわかりました。
ワクチン同時接種の安全性については、日本小児科学会が次のように意見をまとめています。
1) 複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時に接種して、それぞれのワクチンに対する有効性について、お互いのワクチンによる干渉はない。
2) 複数のワクチン(生ワクチンを含む)を同時に接種して、それぞれのワクチンの有害事象、副反応の頻度が上がることはない。
3) 同時接種において、接種できるワクチン(生ワクチンを含む)の本数に原則制限はない。
つまり、基本的には同時接種したからといって、単独接種でも起こる可能性のある副反応のリスクが高まるわけではないということです。
ワクチンの同時接種については、その子の基礎疾患や接種時の体調などを見た上で判断いたします。 どうしても心配な方は、一回づつの接種も勿論受付致しますので遠慮なくご相談下さい。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。