風邪というのは、そのほとんどがウィルス感染症のことを指します。
このウィルスは一年中、空気中に存在していて、のどや鼻、目などの粘膜から侵入します。体内に侵入したウィルスは、細胞内にある核に入り込み、自分自身を増殖させようとします。 それに抵抗するのが体内のリンパ球。ウィルスとリンパ球が闘う過程で、のどの細胞が破壊されてのどが痛くなったり、鼻水が出たり、発熱したり、腸の細胞がおかしくなって下痢をしたりという症状があらわれるわけです。 この闘いは通常、リンパ球が勝ってウィルスの死骸が鼻水や咳、便などと一緒に排出されることで症状が治まって回復に向かいます。しかし、体の方がウィルスに負けてしまうと、合併症を引き起こして深刻な事態に陥ってしまうことがあります。
風邪のウィルスとは?
冬のかぜの代表には、インフルエンザや、嘔吐・下痢を引き起こすロタウィルス、秋口に多いパラインフルエンザなどがあります。しかし正確にはかぜのウィルスはいくつあるかもわかっていません。
風邪による合併症
- 髄膜炎:激しい頭痛や嘔吐、発熱、けいれんの後の意識障害などの症状があると髄膜炎の可能性があります。特徴としては、首を前に倒すと激しく痛がります。早期治療が大切なので、疑わしいと思われたら、急いで受診してください。
1:無菌性髄膜炎
一般に症状が軽く、後遺症もほとんどありません。
2:細菌性髄膜炎
脳脊髄膜(のうせきずいまく)に細菌が侵入して起こる細菌性髄膜炎は症状が強く出て、重い後遺症を残すことがあります。特に結核菌による結核性髄膜炎は、赤ちゃんや幼児に感染しやすく、重い症状を残したり、死亡したりするケースがあります。 - 心筋炎:心臓の筋肉に、主にウィルス感染によって炎症が起こる病気です。原因となるウィルスにはコクサッキーB群、アデノ、サイトメガロ、インフルエンザ、風疹(ふうしん)、ヘルペスなどがあります。心筋炎にかかるのは非常にまれなケースですが、かかってしまうと命に関わる深刻な病気です。
風邪がなかなか治らない時に、急にいつもと違ってぐったりしたり、突然呼吸困難に陥ったり、体にむくみが出るなどのショック症状が見られたときは心筋炎の疑いがあります。大至急、受診しましょう。
風邪の対処法
普通の風邪なら、体をゆっくり休めて安静にすることで除々に回復してゆくものですが、ウィルス感染症であるかぜの根本的な治療には、いまだに有効な治療手段が見つかっていません。
ウィルスは細菌と違うので抗生物質は効き目がなく、抗ウィルス剤でなければ効果がないのですが、風邪に有効な抗ウィルス剤はいまのところ、インフルエンザの薬以外には開発されていません。しかし、細菌の二次感染が起こった時は、抗生物質は有効です。
したがって、ウィルスに攻撃されてもそれをはねのけるだけの力(免疫力)を体につけること、ウィルスが増殖しない環境作りをして予防することこそが、最も簡単で有効な風邪の対策なのです。
夏に暑ければクーラーをつけ、冬に寒ければヒーターをつけるといった「あまりにも快適すぎる環境」にいると、自律神経の調節がうまくできずに、小さな環境の変化で簡単に体調を崩して風邪を引きやすくなります。 一年を通じて、できるだけ薄着で過ごし、自然の暑さや寒さを体感し、体を甘やかさないようにしましょう。冷水浴や乾布摩擦などもお勧めです。風邪が流行る冬になっていきなりはじめると、かえって風邪をひくこともあるので、できれば秋口からはじめて習慣づけるとよいでしょう。
ウィルスを増殖させない環境作り
冬場のウィルスは乾燥した空気が大好きなので、部屋の中を適度な湿度に保つような工夫をするだけでも、ウィルスの増殖力がぐっと低下します。やかんでお湯を沸かしたり、加湿器をつけるなどして、風邪の予防をしましょう。
また、風邪の予防にマスクを着用するという方法もあります。ウィルスはとても小さいのでマスクを通り抜けて体内に侵入しようとしますが、それでもマスクをかけることで内側に熱気がこもるので、口や鼻などの粘膜付近の湿度があがるので、まるで顔の近くに加湿器があるのと同じような状態になり、風邪の予防に効果的です。
また、家族のだれかが風邪をひいて、それが全員に移ってしまうということがよくあります。口うつしなどで食事を与えないようにするのはもちろんのこと、風邪をひいている人とは別々のタオルを使うことや、トイレや洗面所などのタオルはいつも以上にこまめに交換するなどして、家族間でのうつしあいを予防しましょう。
外から帰ってきたら、手洗い・うがいを習慣づけておきましょう。できれば、顔も洗うようにすれば、目の周りなどに付いたウイルスも取り除くことができるので効果的です。
インフルエンザなどのウィルスには、予防接種が非常に効果的ですので、家族そろって予防接種を受けるようにしましょう。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。