新型コロナウイルス感染症の拡大によって、私たちがこれまで当たり前だと思っていた日常は一変しました。かつて経験したことがないような環境の変化は、大人だけでなく、子どもたちの心にも大きな影響を及ぼしています。
突然、保育園・幼稚園や学校が休校になって友達と会えなくなり、楽しみにしていた行事や旅行がすべて中止になったことで、子どもたちはとても悲しく残念な気持ちになったでしょう。休校が長引けば、いつになったら授業が再開されるのか、勉強が遅れてしまうのではないか、という焦りと苛立ちの気持ちが強くなります。また、気軽に買い物に出かけたり、外食することもできなくなって、家で過ごす時間が長くなればなるほど、家族のみんなが憂鬱な気分になり、心の余裕がなくなってイライラしたり、怒りっぽくなってしまいます。
お店に行けばレジがビニールカーテンで仕切られ、外に出ればみんながマスクをして人との距離を置いて行動するという物々しい光景を見ると、子どもは外に出ることに恐怖すら感じてしまうかもしれません。
こうしたネガティブな感情が積み重なることによる子どもの心のストレスに対して、周りの大人はどのように対処してあげればよいのでしょうか?
大人が正しく情報を理解する
子どもにとって一番身近で頼りにしている大人は、保護者の皆さんです。子どもが不安や心配、怖いと思う気持ちを和らげるためには、今起こっていることについて、まずは保護者が落ち着いて子どもに話せるようにならなければなりません。報道を見るたびに、親が大騒ぎしていると、子どもはさらに不安な気持ちになります。
インターネット上のデマや不正確なSNSの投稿に惑わされずに、信頼できる情報源から正確な情報を入手し、今起こっていることをきちんと把握して、正しい知識を子どもに説明できるようになりましょう。例えば、WHO(世界保健機関)や厚生労働省などのホームページは、正確な最新情報を確認することができるのでお勧めです。
子どもの話に耳を傾ける
子どもが今、何を不安に思っているのか、怖いことや心配なこと、間違って思い込んでいることを、しっかりと聞いてあげることが大切です。子どもが自分の気持ちをゆっくりと話せるような機会と時間を作り、どんな話にも否定的にならずに、まずは「そうだね、よくわかるよ」「話してくれてありがとう」と受け止めてあげましょう。
「友達に会えなくてさみしい」「一人で遊んでいてもつまらない」「ずっと家にいるとイライラする」「いつまで続くの?」など、子どもは色々な不安な気持ちや疑問を伝えたいと思っています。こうした感情に共感してあげることで、子どもは受け止めてもらえたという安心感を得ることができます。その上で、「そうだね、じゃあ、どうすればさみしい気持ちが良くなるかな?」「そうだね、今はできないけど、他になにか楽しいことはないかな?」と、前向きな方法を子どもと一緒に考えてあげましょう。そして、辛い状況の中でも頑張っている子どもを、しっかりとほめてあげましょう。
子どもの年齢に応じて正しい情報を話す
大人は、ニュースやインターネットで情報を収集して得た知識やこれまでの経験をもとに、今起きている出来事を頭で理解し、何がどう変われば、あるいはどう対処すれば、今の状況から抜け出せるのかをある程度予測することができます。しかし、子どもは、大人と同じように上手に情報を処理することができません。小さい子どもは、映像で見たことを自分のことのように怖がったり、大きな子どもは、インターネットやSNSで見た噂やデマに惑わされて不安になることがあります。
しかし、子どもは、たとえ小さな子どもであっても、自分なりに現状を受け止めてうまく適応できる能力を持っています。今何が起きているのか、どうやって感染するのか、どうすれば予防できるのか、といったことを、子どもの年齢や成長に合わせた言葉で、正確な情報をもとにきちんと話し、子どもが自分で考えて行動できるようにサポートしてあげることが重要です。子どもがあまり多くを知る必要はないと判断して事実をごまかしてしまうと、かえって子どもの不安を払拭できません。たとえ難しい話であっても、大人が落ち着いたトーンで話してあげることで、子どもは安心します。
医療関係者を含む大人たちが子どもの安全を守ろうとして一生懸命に頑張っているということ、そしてきちんと予防すればウィルスに感染する心配はないということを伝えることで、子どもを安心させてあげましょう。人間は、目に見えないものや襲ってくるようなものに恐怖を感じるものですが、自分たちの力でウィルスの感染をコントロールできるという感覚を持つことができれば、子どもの不安を減らすことができます。
特に、集団生活をするようになる年齢の子どもに対しては、次のような点をしっかりと伝えるようにしましょう。
- みんなが感染するわけではないということ
- 自分の力で自分を守るために具体的に何ができるのかということ(マスク、手洗い、うがい、社会的距離、バランスの良い食事十分な睡眠・適度な運動による免疫力の強化)
- 誰かのせいではなく、ウィルスのせいであるということ
- 心配になったらすぐに相談できる大人がいるということ
子どもの変化に注意する
環境の変化に敏感な子どもは、不安な気持ちからいつもと違う行動をとることがあります。いつも以上に甘える、よく泣く、わがままを言う、親の傍から離れなくなる、おもらしや夜尿をするようになる、遊びの中で今起きていることを再現するといったことがあるかもしれません。あるいは、元気がない、眠れない、食欲がない、お腹が痛い、頭が痛いといった体調の変化として現れることもあります。
しかし、こうした不安な状況の中で、心にストレスを抱える子供がいつもと違う行動をとることは、自然なことです。先述したように、子どもの話に耳を傾ける時間を作って、不安な気持ちに共感し、ポジティブに向き合えるように一緒に話し合うようにしましょう。
生活のリズムを守る
外出自粛や突然の休校、在宅勤務などで、家で家族と過ごす時間が長くなると、今までの生活パターンが崩れてダラダラとテレビを見てしまったり、時間を持て余してイライラしたり、怒りっぽくなりがちですが、こうした周りの行動や感情の変化は、子どもを不安にさせてしまいます。
一日の予定や時間割を決めて、体を動かすようにすれば、生活リズムができて、大人も子どもも心の健康を取り戻すことができます。朝は決まった時間に起きる、学校の授業と同じ時間に勉強する、規則正しく食事をする、夜更かしせずにしっかりと睡眠をとる、という日常的な習慣を大切にしましょう。
また、子どもができそうなお手伝いをお願いするのは、とてもいいことです。どんな小さなことでもよいので、目的意識を持ってやらせてみましょう。たとえ上手にできなくても、「ありがとう」「助かったよ」とほめてあげることで、子どもは自分を肯定して安心することができます。
ストレスを発散できる方法を見つける
子どもと一緒にできる楽しいことを見つけましょう。お絵描き、しりとり、トランプ、歌を歌う、ペットと遊ぶ、絵本・本を読む、アニメやドラマなど好きな番組を見るなど、何でもよいので、一緒に楽しめることをやってみましょう。
国立成育医療センターのホームページには、他にも子どもとできるセルフケアやリラクゼーションの方法が載っていますので、ぜひ参考にしてみてください。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。