乳幼児や小学生などの睡眠障害は、子どもの成育環境について現代社会が抱える問題の1つです。日本社会の24時間化やインターネットの普及により、人々の睡眠時間が短縮されている中で、子どももその生活に影響され、平均的な睡眠時間も減少しています。慢性的な睡眠不足は、集中力や記憶力の低下、疲れ易さ、免疫力の低下などに繋がり、身体的・精神的に子どもに悪影響を与えます。また、場合によっては睡眠障害と言われる病気の一種に繋がる可能性もありますので、甘く考えずにしっかりと改善することが大事です。
睡眠障害の症状
睡眠障害の症状には様々なものがあります。以下のような症状が数多く当てはまるようであれば、睡眠障害を疑う必要があると思います。
- 寝つきが悪く、布団に入っても1時間以上も眠れない
- 眠りが浅く、寝てもすぐに目が覚めてしまう
- 就寝後に寝ぼけて騒いだり、夢遊病のような症状が出る
- いびきをかく
- 朝起きたときに頭痛がする
- 日中ずっと眠く、居眠りする
- 急なめまいや立ちくらみをすることがある
- 精神的に落ち着かず、不安または興奮した状態になる
これらを放っておくと、集中力や記憶力が低下することで勉強に影響が出たり、倦怠感から運動不足となり肥満になったり、うつ病や自律神経失調症などの病気に発展したりする場合があります。特に子どもの場合、成長ホルモンの分泌の為に、大人よりも多くの睡眠時間を必要とします。睡眠は子どもにとって非常に大事なのです。
睡眠障害の原因
睡眠障害の原因としては、主に、生活習慣、ホルモンの影響などによる疾患、先天的な発達障害によるものなどがあります。
生活習慣には、食事の内容や時間、寝室の状況、就寝前の行動などが含まれます。夕方以降にカフェインを多く含む飲み物を多く飲んだり、テレビやインターネットを就寝前まで見ていたりすると神経が興奮してなかなか寝付けません。また、明かりや音が入らずにできるだけ静かに就寝できる場所も必要です。最近の子どもはスマートフォンやパソコンを使うことも多いと思いますが、それらの画面から出る光は、脳内の睡眠ホルモンと言われるメラトニンの分泌を抑制すると言われており、就寝前にスマホなどを見てしまうと質のいい睡眠が取りにくくなります。
疾患については、従来の不眠症の他に、覚醒ホルモンの低下によるナルコレプシーという病気や、睡眠覚醒リズム障害などが挙げられますが、自閉スペクトラムや多動症、アスペルガーなどの発達障害においても睡眠障害が見られる場合があります。
治療と改善
睡眠障害の治療はその症状により様々ですが、まずは生活改善が基本です。早寝早起きを習慣づけ、日中にたくさん日光を浴びることでメラトニンが適切に分泌され、生活のリズムが整います。規則正しい食事を心がけ、朝食もきちんと食べること。お風呂で湯舟につかることも大事です。人は体温が下がることで眠気が促進されますが、お風呂に入って体が温まるとその後は体温が徐々に下がるので眠りに入り易くなります。このため、入浴は就寝直前ではなく、就寝の2時間前程度が良いと思います。それと、就寝前のスマホやパソコンなどはやめた方がいいでしょう。
ホルモンの低下など、生活改善だけで治癒することが難しい場合、漢方薬やメラトニン系の薬を使って治療を行う場合もあります。
また、発達障害の子どもについては、2年ほど前にメラトベルという薬が認可され、適用できるようになりました。この薬の有効成分はメラトニンそのものであり、入眠効果や睡眠リズムの調整効果が期待できます。副作用として、起床後の眠気やめまいなどが出るケースもありますので、処方は6歳~15歳までの発達障害の子どもが対象となります。
睡眠障害は生活改善をして自然に治癒することが一番ですが、それでも不眠や過眠の症状が続くようならクリニックにご相談下さい。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。