「女性のためのワクチン」から、男女を守るワクチンへ
HPVワクチンは、一般に「子宮頸がんワクチン」と呼ばれています。そのため、女の子や女性だけが接種するものだと思っている人も多いかもしれません。
しかし、HPVは女性だけに関係するウイルスではありません。男性も感染し、尖圭コンジローマや肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんなどの病気を発症することがあります。
こうした背景から、近年は男性に対するHPVワクチン接種の必要性が注目されています。日本でも男性の尖圭コンジローマ予防などを目的として接種できるワクチンがあり、男児への接種費用を助成する自治体も出てきました。
HPVとはどのようなウイルスなのか
HPVは、ヒトパピローマウイルスの略称です。主に皮膚や粘膜の接触によって感染し、多くの人が生涯のうちに一度は感染すると考えられています。
感染しても、多くの場合は免疫の働きによって自然に体外へ排除されます。しかし、一部の人では感染が長く続き、数年から数十年を経て、がんやその他の病気につながることがあります。
女性では子宮頸がんとの関係が広く知られていますが、男性にも無関係ではありません。HPVは、性別を問わず感染する可能性のあるウイルスです。
男性にも起こる尖圭コンジローマ
男性に関係するHPVの病気として、比較的身近なのが尖圭コンジローマです。
尖圭コンジローマになると、性器やその周辺に小さないぼができます。痛みがほとんどない場合もありますが、見た目への不安や精神的な負担を感じる人は少なくありません。
治療によっていぼを取り除くことはできますが、原因となるウイルスが皮膚に残っていると、再び症状が現れることがあります。そのため、一度の治療で完全に終わらず、通院が続くケースもあります。
また、本人に目立った症状がなくても、知らないうちにパートナーへ感染させてしまう可能性があります。
HPVワクチンは、尖圭コンジローマの主な原因となる型のウイルスへの感染を防ぐことで、発症のリスクを下げることが期待されています。
男性が接種する意味
男性がHPVワクチンを接種する目的は、将来のパートナーを守ることだけではありません。まず大切なのは、接種する本人の健康を守ることです。
男性もHPVに感染することで、尖圭コンジローマだけでなく、肛門がんや陰茎がん、のどの奥にできる中咽頭がんなどを発症する可能性があります。
これらの病気は、女性の子宮頸がんほど広く知られていないため、男性自身がHPVのリスクを認識する機会は多くありません。しかし、男性にとってもHPV感染は、決して他人事ではありません。
さらに、男性への接種が広がれば、男女間での感染そのものを減らす効果も期待できます。多くの人が感染しにくい状態になれば、社会全体でHPV関連の病気を減らしていくことにつながります。
なぜ若いうちに接種するのか
HPVワクチンは、HPVに感染する前に接種することで、より高い予防効果が期待できます。
そのため、将来の性交渉の可能性が高くなる前の年齢で接種することが重要だと考えられています。男児への接種が検討されているのも、実際に病気になってから対応するのではなく、感染する前に予防するためです。
保護者にとっては、小学生や中学生の子どもに性感染症と関係するワクチンを接種させることに、戸惑いを感じる場合もあるでしょう。
しかし、若いうちの接種は、現在の生活状況を疑うものではありません。将来起こり得る感染や病気に備えるための、長期的な健康対策と考えることができます。
自治体によって異なる費用助成
日本では、女性に対するHPVワクチン接種は、一定の年齢を対象とした定期接種として行われています。
一方、男性への接種は、現時点では全国どこでも一律に無料で受けられるわけではありません。基本的には任意接種となり、接種費用を本人や家庭が負担する場合があります。
ただし、男児への接種費用の一部または全部を助成する自治体も増えています。対象となる年齢、使用するワクチン、助成額、接種回数、申請方法などは自治体ごとに異なります。
接種を検討する場合は、住んでいる市区町村の公式情報を確認し、対象条件や接種できる医療機関について調べる必要があります。
副反応についても理解しておく
HPVワクチンに限らず、ワクチンを接種した後には副反応が起こることがあります。
代表的なものは、注射した部分の痛みや腫れ、赤み、発熱、頭痛、だるさなどです。多くは一時的なものですが、接種前には医師から説明を受け、体調のよい日に接種することが大切です。
注射に対する緊張や痛みから、接種後に気分が悪くなったり、失神したりすることもあります。そのため、接種後はすぐに立ち上がらず、医療機関でしばらく安静にすることが勧められています。
ワクチンには感染症や病気を予防する利点がある一方、副反応の可能性もあります。接種するかどうかは、効果とリスクの両方について説明を受けたうえで判断することが重要です。
「子宮頸がんワクチン」という呼び方の問題
HPVワクチンが女性向けだと思われやすい理由の一つは、「子宮頸がんワクチン」という名称にあります。
子宮頸がんの予防は、HPVワクチンの非常に重要な目的です。しかし、この名称だけでは、男性にも関係するワクチンであることが十分に伝わりません。
本来は「HPVワクチン」と呼ぶほうが、ワクチンの役割を正確に表しています。
HPVは男性にも女性にも感染します。関連する病気も、子宮頸がんだけではありません。名前の印象によって男性が接種の対象から外れているように感じてしまうと、予防できるはずの病気を見過ごすことになります。
男女ともに予防を考える時代へ
これまで、HPV感染による病気の予防は、主に女性の問題として扱われてきました。しかし、感染そのものは男女の間で起こります。
女性だけに予防の負担を求めるのではなく、男性も自分自身の健康を守るために接種を考えることが大切です。
男児へのHPVワクチン接種が広がることには、尖圭コンジローマや男性のがんを予防するという意味があります。それと同時に、社会全体でHPV感染を減らし、将来のパートナーを含めた多くの人を守るという意味もあります。
HPVワクチンは、女の子だけのためのものではありません。
「子宮頸がんを防ぐワクチン」という理解から、「男女ともにHPVによる病気を防ぐワクチン」という理解へ変えていくことが、これからますます重要になるでしょう。
