皆さん、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という病気をご存知でしょうか?これは、麻疹にかかったことのある人が発症する病気で、麻疹ウィルスが脳内に潜伏し、感染してから数年~十数年という長い年月の間にゆっくりと進行する脳炎です。発症した場合は、植物人間になり、やがて死に至るという麻疹の最悪の合併症です。
英語表記のsubacute sclerosing panencephalitisから頭文字をとって、SSPEと呼ばれます。発症する確率は低く、麻疹にかかった人の数万人に1人くらいです。しかし、ここで注意したいのは、1歳未満で麻疹にかかった人に発症するケースが多く、また6歳~9歳の学童期に発症する人が全体の8割を占めていることです。発病のメカニズムはいまだに解明されておらず、治療法も確立されていない難病です。
主な症状
初期の頃は、記憶力や集中力が低下したり、情緒不安定や性格の変化、突飛な行動、うまく話せない、歩けない、字がかけない、物を落とす、けいれん、転倒といった症状が現れます。
さらに病状が進行してくると、腕や足がびくっと痙攣したり、ひどい時には腰がくだけて転倒する程の不随意運動(ミオクローヌス)を繰り返すようになります。
さらに進むと、知能障害や運動機能の低下が進んで、話せない、歩けない、食事もとれないといった状態になり、寝た切りになります。発熱、汗やよだれが多く出るといった自律神経の障害も見られるようになります。
やがて、手足が硬直して異常な姿勢になり、呼びかけにも反応しなくなります。
治療法
残念ながら、今のところ完治できる薬はなく、確立された治療法もありません。病気の進行を遅らせたり、けいれんなどの症状を抑える薬を用いるしかありません。
予防
SSPEになってしまうと、完治することはありません。つまり、そうならないために、麻疹にかからないことが、今できる最大の対策なのです。麻疹ワクチンが積極的勧奨接種に指定されているのは、SSPEを予防するためでもあります。
2006年に、麻疹の予防接種法が改正され、従来は、90ヶ月未満までにそれぞれのワクチンを1回だけ接種する方式でしたが、これからは麻疹と風疹の混合ワクチンを2回接種することになりました。
これは、麻疹の免疫が年令と共に低下していく可能性がある為、幼稚園、保育園の年長の学年で、2回目(第二期)を接種するようになった訳です。
よく「小学生、中学生あるいは大人の2回目のはしかワクチンを打ちたいのですが、どうでしょうか?」という質問を受けますが、個別にご相談ください。詳しくお話します。
いずれにしても、第一期(生後12か月~24カ月未満)、第二期のいずれかまたは両方ともまだ接種されていないかたは、早めに接種するようにお願いします。
当クリニックは、麻疹ゼロ作戦 参加医療機関です。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。