エンテロウィルスとは、夏から秋にかけて流行するウィルスで、ポリオや無菌性髄膜炎、また夏風邪の代表であるヘルパンギーナや手足口病の原因となるエンテロウィルスと同じ属性です。「エンテロ」とは「腸」を意味する言葉で、腸内でウィルスが増殖します。
アメリカでの集団感染では1000人が感染し、うち14人のこどもが死亡し、多くは喘息疾患を持っていたと報告があります。
日本では、都内や埼玉県でもエンテロウィルスに感染した子どもの例が報告されており、現時点で約20の都道府県で47名のこどもたちが感染したと報告されています。ポリオ麻痺に似たような急性弛緩性麻痺が相次いで報告されています。
エンテロウィルスに感染していることに気づかないまま重症化すると、脳神経機能に支障をきたし、手足の筋力低下や顔面麻痺、嚥下(えんげ)障害がおこる可能性があり、最悪の場合は、髄膜炎や脳炎、まひが残ったり、心筋炎や心膜炎を起こします。
初期症状
感染した場合、発熱やくしゃみ、鼻水、咳、筋肉痛といった一般的な風邪症状から始まります。風邪やインフルエンザに似たような症状から始まるので発見が遅れて悪化すると呼吸困難、気管支炎、肺炎、喘息発作などの呼吸器系に影響が出ます。
ヘルパンギーナ や 手足口病 の場合は、発疹が出るので区別しやすいのですが、エンテロウィルスD68の場合、手足が動かしにくい・・・といった症状が出て初めて気づくことが多いので注意が必要です。とくに乳幼児の場合は、手足が動かしにくいかどうかの判断がつかないのでよく観察して、普段と違っておかしいと感じたら早めに受診しましょう。
感染経路
感染経路は、くしゃみ、咳などによる飛沫感染や、鼻水や唾液などのついた手による経口感染です。感染が見られるのは0~5歳の子どもたちがほとんどで、特に乳幼児が感染しやすい病気です。いままで感染したことのない免疫の子が多く、大人の場合は軽く済むか気づかないうちに治っていることが多いです。しかし妊婦が感染すると、早産のリスクや稀に子宮内で胎児に感染し、無菌性髄膜炎や心筋心膜炎を発症して死亡するケースもありますので注意しましょう。
注意したいのは、もともと喘息疾患のある子どもたちです。エンテロウィルスD68は、喘息症状を引き起こす呼吸器疾患で、重度の発作を起こす可能性があります。
予防法
まだ完全な治療法も検査法も確立されておらず、有効なワクチンもありません。通常は、症状にあった薬を服用して1週間ほどおとなしくしていれば治る病気ですが、まれに重症化することがありますので、早期発見、早期治療が大切です。
よく手洗いとうがいをすること、また塩素系の消毒剤で感染者のさわったものを消毒するのも有効です。摂氏100度で1分間煮沸すれば殺菌できます。
【この記事を書いた人】医学博士 中野康伸
横浜市生まれ、自治医科大学卒
・日本小児科学会専門医
・日本アレルギー学会専門医
・日本東洋医学会専門医
横浜市港北区で小児科専門医として、地域に根差した診療を行っています。「病気・症状何でもQ&A」のコーナーでは、一般の方にも分かる最新の医学知識や予防接種の情報、育児・発育の心配な事、救急時の対応など、様々なトピックを掲載しています。